洗われないことを前提に設置されたエアコン ─ 清掃業者にまだ届いていない依頼について
テレビの住宅紹介番組で、床下にエアコンを設置した家を見かけることが増えました。足元からぽかぽか、エアコン1台で家じゅうが暖かい。番組はそこまでを映します。映さないのは、その機械が7年後にどうなっているか、そして誰がそれを洗うのか、という話です。おそらく本記事の読者の大半は、床下エアコンの洗浄を依頼された経験がまだありません。まだ、というのがこの記事の要点です。
目次
テレビは、10年後を映さない
新築やリノベーションのこだわり住宅を紹介する番組で、床下エアコンが取り上げられる機会が増えています。MBS『住人十色』の告知でも、床下エアコンと全熱交換換気を組み合わせ、冬は足元からぽかぽか、という趣旨の事例紹介が確認できます。
画面に映るのは、引き渡し直後の、まだ何も起きていない家です。無垢の床、漆喰の壁、生活感を排した造作。エアコンは造作キャビネットやガラリ戸の内側に隠され、視界からきれいに消えています。数百万円の温水床暖房や全館空調を入れずとも、家電量販店で買えるエアコン1台で家一軒がまるごと暖まる。ローコストで、意匠も損なわない。番組の演出としては、たしかに絵になります。
ただ、私たちはこの業界にいるので、別のことを考えてしまいます。あのエアコン、誰が洗うんだろう、と。
結論から書きます。床下エアコンは、二重の意味で「洗われない」ことを前提に設置されたエアコンです。自分で自分を洗わず、そして他人にも洗わせない。この二つが同じ一台に同居しています。以下、なぜそうなるのかを順に見ていきます。
60秒でわかる、床下エアコン
批判の前に、正確に押さえておきます。
床下エアコンとは、市販の家庭用エアコン(壁掛け型、あるいは床置き型)を床面付近、または床下空間に設置し、床下に温風を吹き出させる暖房手法です。基礎全体を断熱材で包み、床下を「室内と同じ環境」として扱う基礎断熱工法が前提になります。暖められた床下の空気が床材の裏面を温め、各部屋の床ガラリから上昇して、家一軒をまるごと暖める、という仕組みです。
成立条件は厳格です。採用する工務店や設計事務所の多くが、気密性能C値0.5以下、断熱等級6以上(あるいはQ値1.5以下)といった水準を条件に挙げています。これを満たさなければ、吹き出した熱は基礎コンクリートと地面に吸われ、居室まで届きません。
そして、もう一つ重要な条件があります。床下エアコンは、原則として暖房専用で運用されます。夏に床下で冷房を回すと、基礎断熱の閉鎖空間で夏型結露が発生し、土台やコンクリートがカビに覆われる危険があるためです。特に新築直後は基礎コンクリートからの放湿が続きます。その期間については、竣工後半年程度とする研究報告から、1年半から2年とする指摘まで幅がありますが、いずれにせよ「新築の床下は乾いている」という前提は成り立ちません。
したがって冷房は、小屋裏や2階ホールに置いた別のエアコンで賄う。暖房と冷房で系統を分ける。これが標準的な運用です。
ここまでが、床下エアコンという工法の説明です。魅力もわかります。では、ここから本題に入ります。
メーカーは、これを想定していない
まず押さえておくべき事実があります。
パナソニックは、床下など人が生活する空間以外への設置について、保証対象外とし、品質維持の観点から修理を断る場合があると明記しています。日立の据付説明書には、屋内であっても人が生活する空間以外、すなわち天井裏、小屋裏、壁内、床下などには設置しないよう記載があります。同じ据付説明書では、据付高さの目安として床面から1.8メートルから2.3メートルという数値が示されています。
ここは正確に読む必要があります。メーカーが「技術的に不可能だ」と言っているわけではありません。メーカーが責任を持つ前提条件の、外側にあると言っているのです。動くか動かないかではなく、壊れたときに誰も引き受けないという話です。
清掃業者にとっての含意は、ひとつです。あなたが触ろうとしているその機械は、メーカーがすでに手を引いた機械だということ。作業中に基板が死んでも、ファンのツメが折れても、その責任の行き先は、メーカーではありません。現場にいる人間です。
洗われない、その1 ── 自分では洗わない
ここからが、この工法のいちばん奇妙なところです。
エアコンは、冷房や除湿の運転中、アルミフィンに大量の結露水を発生させます。この水が、フィンに付着したホコリを洗い流してドレンパンへ運びます。いわゆるセルフウォッシュです。私たちが夏場に洗うエアコンがそれでもまだ形を保っているのは、あの機械が運転しながら、自分で自分をいくらか洗っているからです。
床下エアコンは、暖房専用です。
暖房運転では、フィンは結露しません。つまり、この機械は生涯にわたって一度も自分を洗わないということになります。フィルターをすり抜けた微細な汚れは、洗い流されることなくアルミフィンの表面に積もり、固着していきます。5年から7年ほど使ううちに熱交換効率が著しく落ち、風量低下や過負荷を招く、という指摘もあります。
エアコンは「吸う機械」である
ここで、多くの方が意外に感じるかもしれない事実を一つ挟みます。
エアコンは、風を出す機械だと思われています。しかし現場を知る方ならご存じの通り、あれは風を出す前に、まず吸う機械です。本体上面のフィルター面から、室内の空気を絶えず吸いこんでいる。そしてその吸引力は、多くの人が想像するよりも強い。キッチンのレンジフードが油煙を吸い上げていくのと、感覚としては近いものがあります。
言われてみれば、と思われた方も多いのではないでしょうか。フィルターにあれだけホコリが積もるのは、ホコリが上から降り積もったからではありません。吸い寄せられたからです。あのフィルターは、部屋じゅうの空気が通り抜けていく網です。
その機械を、床の高さに置きます。
これまで天井付近の、比較的きれいな空気層を吸っていた機械が、床上わずか数十センチの空気を吸うようになる。人が歩けば舞い上がり、掃除機をかければ舞い上がる、あのホコリの層です。そこから、レンジフード並みの吸引力で空気を吸い続ける。しかも高気密住宅ですから、家じゅうの空気は最終的にこの一台を通過していきます。
ホコリの標高に、フィルターを置く。吸い続ける。そして、洗い流されない。
汚れが性能に直結することを示す実例もあります。ある工務店が公開している床下エアコンの洗浄事例では、機体を取り外して分解し高圧洗浄した結果、吹き出しの風速が毎秒2.34メートルから5.88メートルへ改善したと報告されています。単一の事例ですので一般化はできませんが、それにしても、洗う前の状態がどうであったかを想像させる数字ではあります。
洗われない、その2 ── 他人にも洗わせない
では、汚れたら洗えばいい。ここで、第二の壁が立ち上がります。
私たちが日常的にやっている壁掛けエアコンの洗浄は、おおむねこういう手順です。周囲を養生し、脚立を立て、外装カバーとフィルターとルーバーを外し、本体を洗浄カバーですっぽり包む。洗剤を噴霧し、高圧洗浄機で流し、汚水をカバー下部の排水口からバケツへ落とす。
この一連の手順が、床下エアコンでは、ほぼすべて成立しません。理由は三つあります。
1. クリアランスがない
清掃業者が作業を引き受けるとき、エアコン本体の上部に5センチから10センチ、左右にも5センチから10センチ、下部に20センチ程度のクリアランスを求めます。これは贅沢な要求ではありません。外装カバーのビスを外し、基板のコネクターを抜き、高圧洗浄のノズルを差し込むための、最低限の手の入る隙間です。
床下エアコンは、造作カウンターや格子カバーの内部に、隙間なく収められていることが少なくありません。そもそも本体は「隠す」ために低い位置に置かれているのですから、当然といえば当然です。カバーにも基板ボックスにも手が届かない。無理にツメを起こせば、経年で脆くなった樹脂が割れます。
2. 汚水の行き場がない
これが、もっとも重い問題です。
洗浄カバーという道具は、「汚水は重力に従って真下に落ちる」という前提のうえに設計されています。本体の下に受け皿を差し込み、傾斜をつけて、ホースからバケツへ導く。その前提が、床下エアコンでは崩れます。本体の下端が床面すれすれ、あるいは床面より下にあるのですから、受け皿を差し込む空間そのものが存在しません。
ではその汚水はどこへ行くか。隙間から床面に飛散し、あるいは機体の裏側から、壁の内部へ、基礎コンクリートへ、断熱材の隙間へと流れ込みます。基礎断熱の床下は、外気に開かれていない閉じた空間です。そこへ黒い汚水と強アルカリ洗剤を流し込めば、その後どうなるかは、想像がつくと思います。
さらに悪いことに、床下エアコンを採用するような住宅は、たいてい壁が漆喰や珪藻土、床が無垢材です。吸水性の高い自然素材ばかりが揃っています。強アルカリ洗剤とカビの汚水が一度染み込めば、そのシミは二度と抜けません。
3. 電装に水が回る
通常の壁掛け機は高い位置にあるため、万が一の水は下へ落ちていきます。床下エアコンでは、ドレンホースの下り勾配そのものが十分に確保できていない場合があり、洗浄時の高圧水が逆流して、基板やファンモーターに達する危険があります。
NITE(製品評価技術基盤機構)も、誤った内部洗浄が破損や発火につながるおそれがあるとして、正しい知識を持った業者への依頼を呼びかけています。狭所で、姿勢が取れず、養生も十分に効かない環境で高圧水を扱うというのは、その注意喚起の対極にある作業です。
そして、10年の壁
もう一つ、床下エアコンに固有ではないものの、この工法に正面から突き刺さる問題があります。
補修用性能部品のメーカー保有期間は、製造打ち切り後おおむね9年から10年です。設置から10年を超えた機体は、作業中のわずかな力で基板やモーターや樹脂パーツを壊した場合、メーカーでの修理という逃げ道がありません。だから多くの業者が、設置場所を問わず、10年超の機体のクリーニング自体を断ります。
床下エアコンは、汚れが蓄積して能力低下が体感されるまでに5年から7年かかると言われます。施主が「なんだか効きが悪い」と気づいて電話をかけてくる頃には、その機械は10年の壁のすぐ手前に立っている。これは偶然ではなく、構造です。
この二つは、偶然ではない
ここで、いったん整理します。
自分では洗わない。他人にも洗わせない。この二つが同じ一台に同居しているのは、事故ではありません。設計の帰結です。
冷房を捨てたから、自浄が働かなくなった。美観と暖房効率を取ったから、手の届かない場所に埋めた。どちらも、設計者が意図して選んだ結果です。そして、その選択によって浮いたコストは、消えたわけではありません。行き先が変わっただけです。
数百万円の温水床暖房を入れずに済んだ。全館空調を入れずに済んだ。その差額は、10年後の施主と、そのとき呼ばれる清掃業者の側へと、静かに付け替えられています。番組はそこまでを映しません。
付け加えれば、この工法は「床を暖める」という目的に対しても、必ずしも最短距離ではありません。中部電力グループの比較試験では、エアコン暖房は床暖房に比べて室温こそ0.4度高かった一方、床表面温度は5.3度低く、床上5センチから50センチの上下温度差もエアコンのほうが大きいという結果が出ています。床をしっかり暖めたいなら、最初からそれを目的に設計されたヒートポンプ式温水床暖房のほうが、目的整合性は高いということです。
清掃という後工程を検討に入れないまま、こういう設計が選ばれていく。私たちが問題にすべきなのは、そこを選んだ施主ではなく、その設計思想のほうです。
それでも、依頼が来たら
とはいえ、家はもう建っています。いずれ電話は鳴ります。そのときに現場で何を確認すべきかを、実務の言葉で整理しておきます。
先に断っておくと、これは受けるための表ではありません。断る根拠を、言葉にするための表です。
この8項目を潰していけば、受けるにせよ断るにせよ、根拠のある判断ができます。逆に言えば、これを確認せずに通常の壁掛けメニューで見積もりを出すのは、安くて責任だけが重い仕事を、自分から引き受けにいく行為です。
現実解は、ひとつしかない
では、床下エアコンをきちんと洗う方法はあるのか。あります。ただし、その場で洗う方法ではありません。
取り外し完全分解洗浄です。フロンガスを回収し、配管を切断して機体を外し、屋外または工場へ持ち出して丸ごと分解高圧洗浄する。そのうえで再取付し、真空引きとガス充填を行う。ある工務店は「床下に潜っては作業できません」と明言したうえで、一度取り外して清掃し、再取付するしかない、という結論を公開しています。
この方法なら、自然素材の壁も床も汚しません。シロッコファンの裏側まで届きます。先に触れた風速の改善事例も、この取り外し洗浄によるものです。
ただし、二点。
ひとつ。これは清掃業だけでは完結しない仕事です。冷媒を扱う工程が入ります。空調設備の技能と資格を持つ側との連携が前提になります。自社に無ければ、組む相手を先に見つけておく必要があります。
ふたつ。価格が違います。公開されている事例では、取り外し完全分解洗浄は1回あたり4万円前後(税別)とされています。通常の壁掛けエアコン洗浄が8,000円から15,000円程度であることを考えれば、数倍です。この差額を説明できないまま受注すれば、赤字と事故のどちらかが待っています。
断り方も、技術である
最後に、公平を期すために一点だけ書き添えます。
床下設置がエアコンの寿命を何年縮めるのか。この問いに答える定量データを、私たちは見つけられませんでした。「7年で壊れる」「寿命が半分になる」といった断定はできません。言えるのは、メーカーが想定外としていること、湿気と過大負荷と点検困難と清掃困難が重なりうること、そしてそれらを合わせて考えたときに、寿命にとって有利な使い方とは言いにくいということまでです。書けない数字は、書きません。
そのうえで、この記事の結論です。
床下エアコンの洗浄を、無理に受ける必要はありません。多くの現場で、正解は「断る」です。しかし、断り方には二種類あります。
「うちではできません」。これで電話は終わります。
「この設置形態では、本体の下に受けを差し込めないため、その場での高圧洗浄は原理的に成立しません。無理に行えば汚水が基礎内部に回ります。方法としては取り外して分解洗浄する形になり、冷媒の扱いが入るので設備業者と組む必要があります。費用と工程はこうなります」。こちらは、電話が続きます。
同じ「できません」でも、重さがまるで違う。前者は仕事を失い、後者は信用を得ます。そして信用を得た業者のところには、その家の他のエアコンの依頼も、隣の家の依頼も、回ってきます。
床下エアコンの家は、いま建っています。今日も、どこかで引き渡されています。依頼は、まだ来ていない。
来ていないだけです。
「外さない」という判断も、技術のうち。
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