あなたの本当のライバルは、隣の清掃会社ではない。
前回のコラムで「完璧なAIを待っている間に、ライバルはAIと共に成長し、ノウハウを蓄積しています」と書きました。ここで言う「ライバル」とは、同業の清掃会社だけを指すのではありません。
少し、他の業界に目を向けてみましょう。
あなたがコンビニのオーナーだとします。最大のライバルは、通りの向かいにある別のコンビニチェーンでしょうか?もちろん、それも正解です。しかし、顧客が「お昼を手軽に済ませたい」と考えたとき、その選択肢はコンビニ弁当だけではありません。スーパーの惣菜、ドラッグストアのパン、牛丼屋のテイクアウト、デリバリーアプリ…。これらすべてが、あなたの店の売上を奪う「ライバル」なのです。
書店も同じです。ライバルは他の書店だけではありません。人々の「可処分時間」や「知識を得たい」という欲求を奪い合う、スマートフォンの中のニュースアプリ、SNS、動画配信サービス、そして電子書籍。これらすべてが、書店の強力なライバルと言えます。
AI要約 清掃業界の真のライバルは誰だ?予算会議で勝つための「価値の言語化」とAI戦略
我々のいる土俵
さて、これを我々清掃業界に置き換えてみましょう。
「来期の予算編成ですが、コスト削減が必須です。どこから削りましょうか?」
あなたのクライアントの会議室で、今まさに交わされているかもしれない会話です。その議題の俎上に、あなたの会社の「清掃業務委託契約」が載っています。そして、その横で比較されているのは、別の清掃会社からの安い見積書ではありません。
「清掃コストを半減させれば、新しい営業車が一台買えるな」
「この費用を削れば、社員のボーナス原資に回せるかもしれない」
「Webサイトのリニューアル費用に充てた方が、売上に繋がるのではないか」
これが現実です。我々の仕事は、顧客の事業活動における「その他すべての経費」と、その価値を天秤にかけられているのです。
なぜ清掃費は真っ先に削られるのか
そして、ここに残酷な現実があります。企業がコスト削減を迫られたとき、多くの場合、真っ先に削減対象になるのが清掃費です。
理由は明確です。
- 成果が見えにくい: 清掃の価値は「清潔な状態が維持されている」という、当たり前の状態を守ることにあります。問題が起きていない状態は、劇的な変化として認識されにくく、その価値が忘れられがちです。
- 後回しにできる: 「今日やらなくても、明日でもいいか」「少し汚れていても我慢すれば何とかなる」と、緊急性が低いと判断され、後回しにされやすいのです。
- 代替案がある: 専門業者に頼む以外の選択肢が、顧客の頭には常にあります。清掃頻度を週3回から1回に減らす。自社スタッフで簡単な清掃を済ませる(内製化する)。あるいは、初期投資を払って清掃ロボットに置き換える。
一方、広告費は売上に直結し、IT投資は生産性向上を約束し、人材育成は企業の将来を左右します。経営者の目には、これらの方が「削ってはいけない投資」に映るのです。
予算争奪戦で負け続ける先にあるもの
この「予算争奪戦」で清掃業界が負け続けると、どうなるでしょうか?
清掃費の削減
↓
サービス品質の低下
↓
顧客の満足度低下
↓
「清掃にお金をかける価値はない」という認識の定着
↓
さらなる予算削減の要求
↓
業界全体の衰退
この恐ろしい負のスパイラルは、残念ながら、すでに一部で始まっています。
隣の清掃会社と価格競争を繰り広げている間に、我々の仕事の価値そのものが、全く別の土俵で「不要不急」のレッテルを貼られようとしている。この事実に、我々はもっと危機感を持つべきではないでしょうか。
我々が戦うべき相手は、同業他社だけではありません。顧客の予算配分における、その他すべての選択肢なのです。この負のスパイラルを断ち切り、その中で「清掃」が単なるコストではなく、企業の生産性やブランド価値を高める「不可欠な投資」であることを証明できなければ、我々に未来はありません。
今、何をすべきか
この厳しい現実を乗り越える鍵は、視点を変えることです。
- 「同業他社に勝つこと」ではなく、「顧客の予算配分会議で勝ち残ること」。
- 「清掃作業を提供すること」ではなく、「清掃の価値を再定義し、投資に値するサービスだと証明すること」。
そして、効果的なツールはその強力な武器になります。
AIは一つの選択肢です。適切に活用すれば、清掃の効果を数値化し、可視化できます。顧客に「削ってはいけない投資」だと納得してもらえる提案書を作成できます。また、デジタルツールを活用することで業務効率を向上させ、同じコストでより高い価値を提供することも可能です。
しかし、完璧なツールを待っている間も、世界は変化し続けています。
IT投資や業務効率化ツールなどの他の経費項目があなたの予算枠を奪い、見えないライバルたちは、新しい技術とともに成長し、ノウハウを蓄積し続けているのです。
予算争奪戦で勝ち残るために
同業他社だけを見ている余裕は、もうありません。本当の戦いは、「顧客の予算配分会議」という見えない場所で起きています。
今すぐAIとの対話の中から、清掃の価値を言語化し、顧客に「投資」として認識してもらう力をつける。それが、清掃業界の未来を守り、予算争奪戦で勝ち残る道なのです。
小さな一歩で構いません。まずは試してみることから始めましょう。
